沖縄タイムスは共同通信に出資する加盟社の一つで、日ごろ記事や写真の配信を受け、紙面に掲載している。過去には合同で連載企画をしたこともあった。しかしその場合も完成した記事を交換するだけで、取材段階の一次情報を共有する合同取材は、両社にとって初めての試みだった。
石井と私は、情報提供してくれた関係者の話を一緒に6時間にわたって聞いた。個別の取材メモを共有し、進捗を報告し合った。東京の防衛省・自衛隊中枢にアクセスできる石井と、沖縄にいる私が役割分担した。互いの社内でも、ごく一部を除いて取材内容は報告せず、秘密裏に進めた。
石井は前述の通り自衛隊のスパイ活動を暴いている。当局に監視されている可能性が高い。やりとりが暗号化され、安全性が高いとされるメールサービスのアカウントを互いに作り、そこで連絡を取った。それでも、ネタ元の名前が出るような話は直接会った時にしかしなかった。石井はメモの束を抱えて3度、沖縄に来てくれた。
途中、鍵を握る人物に計画の存在を否定されたこともあった。石井から「思うようにいかないものですね」というメールを受け取り、ここまでかと覚悟した。
それでも石井の熱意と取材力はすさまじかった。私はたびたび、石井のメモを見て息をのんだ。「私だったらこれだけ裏が取れれば書くと思います」と言ったことがある。しかし石井は「単独でももちろん間違いはあってはならないが、合同取材ではなおさらあってはいけない」となおも確証を探し、最後に決定的な証言を引き出してくれた。12月、石井と2人、「これなら絶対に間違いない」と顔を見合わせた。
本記、解説、何本ものサイド記事。書くべきことはたくさんあった。それぞれが書いた記事を見せ合い、一つ一つの表現と、なぜそう言えるのか、根拠を確認していった。だいたいの準備が整ったのは年末。合同取材開始から半年以上が過ぎていた。
■極秘合意
この記事が、沖縄タイムスで1面トップになることは確定している。今回大事なのは、共同通信の配信を受ける他の新聞社でもなるべく大きく扱ってもらい、問題を全国に伝えることだ。そこで、掲載のタイミングは共同通信に任せ、なるべく全国ニュースが少ない日を見極めてもらうことにした。新型コロナウイルスの感染状況が悪化するなどして何回か見送った後、2021年1月25日に掲載の日を迎えた。