防衛省は表向き否定しつつ、裏では「記事と似たようなことはあったが、終わった話。将来陸自が常駐するとしても、それは今回報じられた合意とは別だ」と解説していた。大半の全国メディアはその都合のいい説に乗り、時事通信を除いて常駐計画を報じなかった。

 ワシントンに駐在する沖縄タイムスの同僚、平安名純代は独自取材で追撃してくれた。2015年、ホワイトハウスの高官が国防総省から陸自常駐計画の報告を受けていた事実をつかんだ。元高官は計画が「日米両政府間の共通理解」だったと証言した。日米安保体制の秘密は、ほとんどが米側の情報で明らかになる。

■暴くべき秘密

 石井はこの合同取材でまた1人、貴重な情報源を失った。「ああいう原稿になるとは思わなかった」と告げられたという。それでも、表向き淡々としている。「微妙な原稿を書く以上やむを得ない。情報提供者がバレた、組織内での立場を悪くした、ということには絶対にしない。その鉄則は守っている」。石井のプロフェッショナリズムに間近で触れられたことは大きな財産だった。

 東京都市大学教授でジャーナリストの高田昌幸は、私と石井が出会った調査報道セミナーの主催者の1人だった。その場から生まれた合同取材を喜ぶとともに、「権力監視型調査報道の画期的な第一歩」と評してくれた。

 第2次安倍政権以降、権力は強大化している。情報が一極集中し、秘密が増えている。そして、メディアは明らかに弱くなっている。読者や視聴者を失い続けて経営は苦しく、記者の数が減っている。

 たとえ不都合な事実を1社が暴いたとしても、それだけで権力が非を認めて改めることもなくなった。各社がそれぞれの角度から問題点を掘り起こし、世論が反応した時だけ、事態は変わる。権力を揺さぶろうと思えば、束になってかかるしかない。

 私がそうだったように、大きいネタの端緒を抱えたまま、どうにもできずに悶々としている記者は今も各地にたくさんいるはずだ。信頼できる仲間が見つかったら、たとえ他社でも一緒に調査報道に挑戦してほしい。秘密のかけらをかき集めて持ち寄れば、全体像が浮かぶかもしれない。

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