報道された2013年11月当時、国会では特定秘密保護法案が審議されていた。シビリアンコントロールを無視して暴走する軍事組織、際限なく増殖する秘密。法案の危険性を浮き彫りにする調査報道だった。
端緒をつかんでから記事にするまでは5年半かかったという。途中、元自衛隊幹部に警告された。「本当にあなたが虎の尾を踏んでしまったら、(彼らは)あなたを消すぐらいのことはやる」。それでも動じず取材を続け、最終的に陸上幕僚長や防衛省情報本部長といった最高幹部職の経験者から具体的な証言を引き出し、事実関係を固めた(石井著『自衛隊の闇組織』)。
飲みに誘い、親しく杯を交わし、情報を聞き出す。石井の取材手法は昔ながらだ。しかし、聞いた後の行動が並大抵ではない。ネタが大きすぎ、本質的すぎて、人間関係が終わると分かっていても、書き切ってきた。
日ごろ取材対象と懇意にしていて、「いざとなれば後ろからたたき斬る」などと勇ましいことを言う記者はいくらでもいる。石井のように実際にたたき斬ってきた記者を、私はあまり知らない。
石井はこの記事が社内で検討される過程で、陸幕長経験者、情報本部長経験者の責任者2人に限っては実名を報じてもいいと申し出たという。もちろん本人たちの了解が取れるはずはない。「極めて責任の重い立場にあり、それもシビリアンコントロールに反するような極めて重大なことに関係してきたから」と決意した。検討の結果、2人の証言は匿名のまま掲載することに落ち着いたが、石井は集めた情報をどこまでも読者のために生かし、取材過程を説明する覚悟を決めていた。
記事が配信された後は、防衛省・自衛隊の各種会見でシビリアンコントロールの逸脱を執拗にただした。かつて頻繁に酒席を共にした陸幕長とは、記事を書いたことで完全に断絶していた。報道から7カ月後の退任会見。なごやかな雰囲気の中、ここでも石井は「大臣にも嘘をつくということは、シビリアンコントロールに反することになりませんか」「やましい点はまったくありませんか」と追及した。