あと、2015年以降、正社員率が増えているんです。人口が減ったせいもあって、正社員になれるようになった。アベノミクスの若者受けがよかった理由のひとつに、安倍さんが経団連に給料上げろとか、正社員にしろなどと言って、ある程度は実現できたということも背景にある。「シェアしよう」っていうことの背景には、「オレたち、困ってるんだ」っていうこともあったでしょうから。給料が上がると助け合わなくてもよくなっちゃう。
河尻:「アベノミクス」を言い出したのが2013年で、その“効果”が出始めたのも16~17年頃でしょう。広告やメディア業界を見ても、急速に五輪ムードに入っていき、第三の消費的価値観がジワッとカムバックします。それを象徴するのが『クウネル』のリニューアルなのでは?(16年1月号)。「かわいいものに、トキメキたい」をテーマに掲げて、バブル世代向けの編集に変わりましたよね。小林さんは、そのへんの変化って何か感じます?
小林:第四の消費の変質という話で言うと、ダイソーが「スタンダードプロダクツ」という新しいブランドを始めたんです。低価格帯だけどマット釉のかかったような、ぱっと見、かつての暮らし系雑誌に載っていそうな感じの、写真映えしそうな器とか、白樺の皮かと思いきや実はポリプロピレンで編まれたような、なんちゃって北欧ふうのバスケットとか。ウェブサイトを見ると、我々は地球環境に配慮して展開していますよっていうムードを醸し出していて。それで、批判するからには実際に見なくちゃと思って店舗に行ったら、「こんな感じでしょ」と言わんばかりの記号化、スタイル化がすさまじくて、まさに「ファストていねいな暮らし」だと思いました。
三浦:ファストていねいな暮らし(笑)。“第四の消費ふう”ということですね。そう考えると、いま、無印がすべきことは、たとえば、拾ってきたもので自分の暮らしをつくろうみたいな、そういう行為を提案することなんじゃないかな? そうなると「どこでもうけるんだ?」という話になるけど、思想としてはそういうことを提案すべきだと思う。それこそが禅的でもあるし。