撮影:森下大輔
撮影:森下大輔

 その作業はいたってシンプルで、自分のアイデアで世界を引き出そうとするだけだという。

「カメラは持っているときはそれこそ、空白というか、まっさらな状態で移動している。撮影は単純に、被写体に反応するにまかせる、というのはあるんですけれど、やっぱり、新しい意味みたいなものを探しているという感じですね」

 撮れないときもあるんですか、と聞いてみた。

「ありますあります。1日中歩いて、2、3カットとか。やっぱり、一枚の写真で勝負したいですから、絶対に納得のできる絵づくりから逃げない。撮るときはほんとうにすべての意識を集中しています。それが撮れたら自信を持って死ねる、くらいの気持ちでやってきました」

■作家は苦しまなきゃいけないと思っていた

 被写体のイメージはピントを合わせる位置によってがらりと変わる。そのため、ピントには非常に神経を使うという。

「何かしら、視線をとらえる『入り口』をつくる。そこからちょっと入って、飛んでいくような。ふっと軽くなるような『浮遊感』をすごく大切にしています。写真の中で遊んでほしいというか」(人間の視線はまず、焦点の合った部分や理解できる部分に引きつけられ、そこから外に広がっていく性質がある)

 森下さんは写真の純粋性を追求するきっかけとなったヒヨシの教えについて、こう振り返る。

「ヒヨシのドグマに押しつぶされなかったというか、いい感じにブレーキになってくれた。楽観的にバーッと作品をつくっていたら、たぶん、そんなに伸びなかったと思うんです。自分でもすごく意外なんですけれど、作家って、もっと苦しまなくちゃいけないと思っていた。ずっと苦しかったですけれど、ここ3年くらいで変わってきました」

(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】森下大輔写真展「Dance with Blanks」
PGI 4月16日~6月5日。

同名の写真集(asterisk books、304×243ミリ、96ページ、掲載作品45点、ハードカバー、6600円・税込み)も発売中。

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