■莫大な富裕層の資産が社会貢献に還流する時代に

 村上財団はフローレンスに対して、これまで数千万円規模の寄付をしている。一方、寄付を受けた側の駒崎はどう思っているのか。駒崎は一般論と前置きした上で、寄付や助成をする財団には、寄付を必要とするNPOを「審査する側」というお上意識がある場合もある、という。重視されるのは、活動そのものよりも収支や年次報告書などの書類。財団とNPOの関係は銀行と中小企業の関係にも似ていると感じていたと語り、こう続ける。

「けれども、絢さんは最初からNPOを見下さなかった。丁寧に僕の話を聞いた上で、寄付させてください、と。彼女が投資をするのは目の前の『人』なんです。だから僕も一緒に世の中の社会課題と闘っているという感覚をずっと持つことができています」

 強制調査の時、村上サイドの弁護を担当した弁護士・中島章智(58)は、父の東大時代の同級生で、村上ファンド時代から今日に至るまでの父の顧問弁護士だった。中島は被害者には絶対にならないと決めた絢の決意に、投資家としての「業」を見た思いがしたと証言する。

「投資の世界は連戦連勝とはいかず、負けた時にどうするかが重要。物事を悲観しても投資先の会社の悪口を言いつづけても、失った損害は回復しないし、最終的に勝つことはできない。常に合理的に思考して、失われた損害をどう回復し、挽回するか。絢さんには父から受け継いだゆるぎない投資家的思考が染み付いているんです」

 前出の大西は、日本の富裕層は公益マインドに乏しく、そのお金の使い道も私的領域を出ないが、世界は違うと語る。今や資産10億ドル(日本円に換算するとおよそ1100億円)以上のスーパーリッチと呼ばれる富裕層の個人資産が、一国の社会保障の予算を凌ぐスケールで膨張しているとした上で、こうした個人資産がこれまでにない規模で社会貢献の分野に還流する時代が必ずやってくると断言する。

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