大学卒業と同時に絢はモルガン・スタンレー証券会社債券部に入社。3年の経験を積んだ後、父が立ち上げた投資会社「C&I Holdings」の代表取締役に就任。父の意思を引き継ぎ、投資家としてコーポレートガバナンスの普及に取り組み始める。またプライベートでは父の友人の紹介で知り合った野村幸弘(32)と結婚、1人目の子どもを出産。公私共に充実した生活の最中、その後の絢の人生を決定づけるある事件に巻き込まれる。

 15年11月25日、午前8時。何の前触れもなく絢の自宅に、黒いスーツを着た10人程度の男女が押しかけてきた。父に金融商品取引法違反(相場操縦)容疑がかけられ、証券取引等監視委員会が強制調査に動いたのだった。自宅の外には報道陣が黒山の人だかりを作っていて、かつての「あの日」と同じ光景が広がっていた。

■子ども失った絶望の中、社会貢献の道へ進む決意

 実はこの時、絢のおなかの中には、妊娠7カ月の第2子がいて、ちょうど家族待望の女の子と判明した直後だった。そもそも、監視委員会が調査の対象とした期間は、絢は1人目の子どもを出産する1カ月前の産休中で、株のトレーディングや売買判断には全く関与していないことは明らかだった。それにもかかわらず、絢は父に巻き込まれる格好で調査の対象となり、長時間にわたって自宅で調査を強いられることになる。結論から言うと、この調査は不発に終わるのだが、絢を待ち受けていたのは最悪の結末だった。

「強制調査が始まって最初の定期健診で、おなかの胎児が亡くなっていることが発覚したのです。相当のストレスだったんですね。また、強制調査への対応が迫られていたので、病院で亡くなった胎児を摘出する手術の10分前まで関係者と電話会議をしていました。自分を責めたらいいのか、誰を責めたらいいのか全く分からない。人生でこれほどの虚無感に陥ったことはありませんでした。安定剤を飲んで何とか精神の安定に努めました」

暮らしとモノ班 for promotion
「集中できる環境」整っていますか?子どもの勉強、テレワークにも役立つ環境づくりのコツ
次のページ