日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。藤沢で行列を作る清湯(ちんたん)系醤油ラーメン店の店主が愛するのは、中華の名店出身の同い年の店主が相模原で紡ぎあげる極上の一杯だった。
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■目指すのは「あのお兄ちゃんにまた会いたい」店
神奈川県の藤沢駅から徒歩6分ほどのところにある「らあめん 鴇(とき)」は2015年にオープンし、今年で5年目を迎える。見た目も美しい清湯系の醤油ラーメンは鶏と醤油の旨味が溢れ、奥行きのある味わいで湘南エリアのラーメン店を牽引してきた。
店主の横山巧さん(33)は藤沢育ち。地元のラーメン店「晴れる屋」や目黒「勝丸」でアルバイトとして働いた後、厚木「麺や 食堂」と目黒「麺や 維新」などの名店を渡り歩き、地元・藤沢に戻って独立した。古民家風の内装は、伊豆で旅館を営んでいた祖父の愛した三分杉の机や竹の格子をモチーフにしている。
現在の藤沢にはあまりラーメンのイメージがないが、かつては名店が軒を連ねる街だった。1986年、今は亡きラーメンの鬼・佐野実さんが「支那そばや」をオープンしたのも藤沢だ(現在は戸塚に移転)。93年には「七重の味の店 めじろ」がオープン。横山さんは中学時代、職場見学で「めじろ」を取材したことがあるという。
「ラーメン屋ってこんな世界なんだ!と子どもながらに驚いた記憶があります。そのときの光景はいまだに目に焼き付いていて、自分も地元でラーメン店を開くことで街に恩返しがしたいと思ったんです」(横山さん)
「鴇」は開店から程なくして人気店となり、賞レースやランキングの常連になった。ラーメン通からも一目置かれる存在に成長したが、横山さんが一番意識しているのは「家族連れ」だという。
原体験は修行先の「麺や 食堂」で見た光景だ。店にはわたがしやアイスクリーム、おみくじなどが置かれていて、いつも多くの家族連れでにぎわっていた。子どもたちが笑顔でラーメンを食べている姿を見るのがうれしかった。
「『あのラーメンを食べに行きたい』というより『あのお兄ちゃんにまた会いたい』と言われるような店だったんです。自分にも子どもができて、子どもが集まるラーメン屋っていいなぁと改めて思っています」(横山さん)
いずれは店を移転して、さらに子どもが来やすい店を作っていきたい。より美味しい一杯を作るために、新しい機材の導入も検討しているという。
「今はまだ軸を作っている最中で、正解は見つかっていません。修行先の名前に恥じないよう、みっともない仕事をせず、しっかりしたラーメン作りを心がけています」(横山さん)
そんな横山さんが愛するラーメンは、神奈川県の相模原で同い年の店主が紡ぐ一杯だ。