私が会社に勤めながら物を書くようになってからは、担当編集者の方々に、いろいろなお店に連れていってもらった。男女雇用機会均等法が施行される前で、担当してくださるのはほとんどが年上の男性だった。彼らは自分のテリトリーの飲食店に連れていってくれ、それらの店はすべておいしかった。気取らない店で出される食事もおそうざいのようなものばかりなのだが、明らかに一段階、家庭料理とは違っていた。焼き魚もガス台で焼き網で焼くのではなく、注文を受けるとお母さんが、

「はい、はーい」

 と返事をして、店の外に七輪を出して焼く準備にとりかかる。そしてしばらくすると、じゅうじゅうと音をたてている秋刀魚がのった皿を、

「お待たせしましたー」

 と渡してくれる。ときには「こらあ」とお母さんの叫び声が聞こえてきてびっくりしていたらお客さんが、七輪の魚を狙う野良ネコが何匹かいて、隙を狙ってかすめ取って行くのだと教えてくれた。それでもこのお店はネコを徹底排除しようとはしていなかった。緑黄色野菜のみをシンプルに炒めただけの「オールグリーン」とか、すべてがおいしくて大好きな店だったが、数年後にマンションが建つために立ち退きになり閉店になったと聞いた。間口も狭い木造の昭和の典型的なお店だったけれど、そういった店はほとんど見なくなった。

 料理を作りたくない人、特に母親のなかには手作りをしなくても、外食でもいいじゃないかという人がいる。この連載の最初に書いたように、それぞれの家が国家みたいなものなのだから、そこにはその家なりのルールがあり、それは他人があれこれ口出しする問題ではない。家族が納得していればいいのだが、彼女たちのいう外食って、いったいどういうところで食べているのだろう。知り合いに聞いたら、
「ファミレスかファストフードじゃないの。小さい子供だと店から断られる場合もあるし、子供もずっとおとなしく座っているのが難しいから」
 といった。特に最近は椅子に座っていられない子供が多いと聞くので、親は大変らしい。それならば家で簡単な御飯を作ればいいのに、それはしないのだ。

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