しかしそんな庶民的な食堂も次々と姿を消してしまった。ラーメン店やファストフード店はどんな駅前にも必ずあり、多くの人で賑わっている。しかし栄養バランスはいまひとつだ。たまにではなく、ラーメンやファストフードを食べるのが日常的な習慣になっている人が、他の2食で野菜をたっぷり摂っているとはとても思えない。せいぜいコンビニの生野菜サラダを食べたり、野菜ジュースを飲んで、野菜を摂った気分になっているだけではないだろうか。まあ、これも個人の問題なので、私の余計なお節介なのだが。ここ何年かで急激に日本人のふつうの食べ物が、様変わりしてしまった。典型的な和食は体によくないという医者もいる。米、雑穀よりもパンのほうが安くなり、御飯は電気炊飯器が炊いてくれるのに、「炊きあがるまで待つのが面倒くさい」「炊きあがるときの匂いが臭い」とまでいう人も出てきた。

 私の知り合いが、家に遊びに来た子供の友だちの高校生に御飯を食べさせたところ、肉じゃが、南蛮漬け、自家製の漬物、沢煮椀などに対して、その子がいちいち「これは何」「はじめて見た」と反応した。食後に果物を出したら、「お金持ち」ともいう。出したのはリンゴなのである。その子がいうには、果物は値段が高いので、上流階級の人しか食べないものなのだそうだ。その子の家庭は裕福で、ひんぱんに外食をしている話は、子供から聞いていたものの、知り合いはその家は外食でいったい何を食べているのだろうかと首を傾げていた。外食はプロの料理、そして店の雰囲気を楽しむものであると同時に、自分では作れないものや、ふだんの食生活では作りづらく、欠けているものを補う意識があった。しかし家での食生活の根っこを作っていない人たちは、ただそのときの気分だけで、食べているだけなのだなとわかった。

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