「気にしませんよ。だって考えても歩けるようにはならないですから」

 その後、互いに海外留学で1年以上離れて過ごし、再会した。就職活動で悩んでいた彼の相談に乗る中で、今度は彼のほうから「付き合おう」と言い出した。どんなところに惹かれたのか。

「なっちゃんは『自分はこう思う』とか『こうしたほうがいい』とは決して言わないんです。『あなたはどう思うの?』と問いかけ、自分自身の中に眠っている答えを上手く引き出してくれて」

 話すうちに自分のやりたいことが明確になり、第1志望の就職先から内定も得られた。気がつくと、かけがえのない存在になっていた。

 だが、結婚までの道のりは険しかった。5年付き合って結婚を決めたが、夫の両親は、伊是名の障害を理由に猛反対。すでに招待状も送っていた結婚式をキャンセルすることになった。その半年後、式を挙げたが、夫の親族側は誰も出席せず、招待状も未開封のまま送り返されてきた。

「夫の両親は、障害者が家にいることがどんなに大変かわかっているのか、と頭から反対で。私たちがどんなに『大丈夫、できます』と伝えても一切聞いてくれず、とっても悲しかった」

 その分、たくさんの友人たちが祝福してくれた。二人は、「僕たちが幸せに暮らす姿を見れば、いずれわかってもらえる」(夫)と強い気持ちで結婚生活をスタートさせた。

●ハイリスクの妊娠・出産、周到に準備して臨んだ

 障害と共に自分の人生を切り拓いていくとき、人並み以上のハードルがあるのは事実だ。だから伊是名は実に細やかに、あらゆる事態を想定して事前の備えを怠らない。人に対してもこまやかな心配りでたくさんの味方を得たからこそ、困難な中でもやりたいことを次々に実現してこられた。

 妊娠・出産がまさにそうだ。骨形成不全症は2分の1の確率で遺伝する。母体や赤ちゃんの命の危険も一般の妊婦と比べて高い。将来、子どもがほしいと考えていた伊是名は、まずは自分の体について知るため、20代の頃から婦人科を受診した。だが、多くのクリニックで「門前払い」を受ける。

「足を開いて座る内診台には座れないと決めつけられ、子宮や卵巣、膣に異常がないかを確認してもらえなかったんです」
 でもそこであきらめることなく、同じ病気で出産を経験した女性から病院を紹介してもらった。初めて、伊是名の子宮は一般女性の平均以上の大きさだとわかった。医師は言った。「妊娠、出産の可能性は十分にありますよ」

「すごく嬉しかった。そのときに撮った子宮のエコー写真は宝物になりました」

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