身長100センチのママ。5歳の長男も3歳の長女もママの電動車いすが大好きだ(撮影/松永卓也)
身長100センチのママ。5歳の長男も3歳の長女もママの電動車いすが大好きだ(撮影/松永卓也)
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5歳の息子と3歳の娘にはすでに身長を越された。子育てで最も大変だったのは2人目の出産後。夫は夜勤や出張などのため不在がちで、子どもに何かあったらどうしようと、常に気が張りつめていた(撮影/松永卓也)
5歳の息子と3歳の娘にはすでに身長を越された。子育てで最も大変だったのは2人目の出産後。夫は夜勤や出張などのため不在がちで、子どもに何かあったらどうしようと、常に気が張りつめていた(撮影/松永卓也)
キャンプにはまっているのは、「小さい頃に連れて行ってもらえなかったからかな」。重いものは持てないし、抱っこをお願いすることもあるが、企画や予約、役割分担などを担当し、輪の中心にいる(撮影/松永卓也)
キャンプにはまっているのは、「小さい頃に連れて行ってもらえなかったからかな」。重いものは持てないし、抱っこをお願いすることもあるが、企画や予約、役割分担などを担当し、輪の中心にいる(撮影/松永卓也)
買うのは子ども服。「車いすが黒いので明るい色を、そして子どもっぽくならないような服を選んでいます」。プチバトーは大好きなブランドだ(プチバトー下北沢店で)(撮影/松永卓也)
買うのは子ども服。「車いすが黒いので明るい色を、そして子どもっぽくならないような服を選んでいます」。プチバトーは大好きなブランドだ(プチバトー下北沢店で)(撮影/松永卓也)

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 自分らしく生きることは難しい。病気や障害があればなおさらだ。誰かに遠慮し、自分の気持ちをしまって生きる人も少なくない。

 だが、彼女は諦めない。歩けなくたって、海外留学へ。好きな人にも猛アタック。2児の母になった。

 自分でできないことは多い。反対に遭うこともある。だから知恵を絞り、味方を増やしながら、思いをかなえてきた。

 東京都心部から西へ西へと車を走らせ、約2時間。豊かな自然が広がる東京都奥多摩町のキャンプ場に1台の車が到着した。運転席から男性が出てきて、バックドアを開け、スロープを引き出す。中から電動車いすに乗った女性が降りてきた。
 女性は先にキャンプ場に着いていた若い女性たちと再会を喜び合った後、「みんな、荷物たくさんあるから、運ぶの手伝ってもらえる?」と呼びかけた。キャンプチェアやクーラーボックス、調理用具、食材などが運び出され、車いすの女性は、砂利道に電動モーターの音を響かせながら、バーベキュー場へと向かった。

 輪の中心にいた女性は、伊是名夏子(いぜななつこ)(36)。国の指定難病でもある「骨形成不全症」という病気で、生まれつき骨が弱く、骨折や手術を繰り返してきた。身長100センチ。歩くことはできず、電動車いすが足代わりだ。耳の奥の骨も変化し、右耳は聞こえなくなり、左耳も補聴器をつけている。現在は5歳と3歳の子を育てながら、コラムニストとして新聞などに3本の連載を抱え、講演で全国各地を飛び回る日々を送る。

「最近、キャンプにはまってて」

 春や秋には、こうして家族や友人たちと毎月のようにキャンプやピクニックに出かける。キャンプといえばバリアフルで、車いす利用者には縁遠いイメージがあるが、伊是名は私たちを縛ろうとするそうした先入観を軽々と超えていく。

 この日、キャンプ場に集まったのは伊是名の夫(36)と子どもたちのほか、大学時代にスタッフをしていたフリースクールに当時通っていた生徒たち7人。もう10年以上の付き合いだ。

●「1週間もつかもたないか」父はその場に座り込んだ

 キャンプ場に到着してまもなく、「バリア」に直面した。トイレへ続く急斜面は舗装されておらず、途中に丸太階段もある。すると伊是名は周囲を見渡し、そのうちの一人に、

「さあや、お願い、トイレに連れて行ってもらっていい?」

 と声を掛け、ひょいと抱き上げてもらった。

「さあや」こと佐藤沙安也(28)は言う。

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