2000枚のピザの画像を仕分けるのは苦ではない
しかし、思わぬ落とし穴が……
“2000枚のピザの画像の仕分けを快く引き受けてくれた”笹生さんだが、本当のところはどうだったのだろうか。
「全く苦にならなかったですよ。私のコンセプトは、『脱・職人』です。やはりどの店舗でも安定して美味しいピザを提供できることが一番大切ですから」(笹生さん)
笹生さんは、「パンには作り手の性格がそのまま反映される」という。雑な人、丁寧な人、誰が作るかによって仕上がりが全く変わってくる。だからこそ、細かなマニュアルを用意しているのだが、「パンは生き物ですからね。イメージ通りにいかないこともあります。比喩じゃないですよ。イーストという生き物とうまく付き合わないといけないんです。そこがまた楽しいのですが」
ピザは特に難しく、生地を伸ばす人や焼く人によって、見栄えや美味しさに差が出やすいという。
「ピザの生地は、下手な人が引っ張ると甘みがなくなります。荒れた生地は、グルテンが切れて気泡もなく、食べたときにもっちり感がないんです。逆に、さささっと広げてあげると、きれいに膨らんで食感も良くなります。奥深いですよ」
リピーターになってもらうには高品質を維持する必要がある。売り場に品質の良くないピザが並ばないよう常に気を張る中で、ピザ焼き色判定AIシステムは、笹生さんにとっても渡りに舟だった。
ただ、実際に運用してみると、困ったことが分かった。AIに「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」を教え込むところまでは良かったが、現状では、照明の加減によってAIが影を「焼き過ぎ」、光がさすと「生焼け」と誤判定してしまう現象が頻発しているという。
「当初は、ピーク時にチーフなどに代わってAIが判定してくれたらいいなと期待していたのですが、なかなか難しいです。どう打開して精度を上げていくのか、安藤さんの腕の見せどころですね」
ピザの焼き色判定は難しいけれど……
安藤さんから「ダメでした」という声は聞きたくない
「安藤さんは今、相当悩んでるんじゃないかな」。笹生さんはそう安藤さんを慮る。同時に、熱い思いも感じているという。
「安藤さんはね、熱意が違います。ピザ焼き色判定AIシステムにかける思いがすごいんです。途中、私が『これはちょっと振り出しだね』みたいな言い方をしたことがあったんです。そのとき安藤さんは、残念とかそんなんじゃなくて、『私はもう後戻りするわけにはいきません』と、そんな顔をしたんです」
そもそもピザは難しい。一枚の丸い生地に、黒っぽい部分もあれば、白っぽい部分もある。そう簡単に、白黒つけられるものではないのかもしれない。
「でも、安藤さんから『ダメでした』という声は聞きたくないんです。何とかしてあげられたらいいのですが、私には出てきたピザの良し悪しを判定することしかできなくて歯がゆいです。そうだ、私の頭脳をAIに持っていけばいいのか!……って、違うか。安藤さんの思いに応えられるように頑張ります。ここまできたら、一緒にやりきりたいです」