書籍『孤独の台所』
書籍『孤独の台所』

「もっちり感」と「香ばしさ」

 これを活かしているのが、昔ながらの洋食店や喫茶店のナポリタンです。昔ながらのナポリタンは、茹で時間きっちりに茹でた太めのパスタにオイルをまぶして、冷蔵庫に入れて寝かしています。

 寝かしているといえば聞こえはいいけど、要は茹で置きです。それでも、いったん冷蔵することで独特のもっちり感が生まれて、注文が入るごとに炒めることで香ばしさが立ってきます。

 茹でたてが一番うまいというわけではないし、茹で置きだから手抜きというわけではないんです。それでも普通の家庭や俺のレシピでも茹でたてのパスタを使うのは、単にそっちのほうが速く作れるからというだけです。

グランドメニューは全部覚えた

 さて、イルキャンティで働く俺は茹でたパスタをタッパーに入れまくって、ピークタイムに備えます。午前11時半を過ぎるころからが怒濤の注文ラッシュ。俺はピザと前菜、料理長がパスタを担当することが多かったのですが、ここから数時間はまったく気を抜くことができません。全員がフル稼働しないと現場が回らないんです。

 俺は入店2日目からピザを任されていました。自宅で生地からピザを作った経験もあったから、その応用で店のピザも作れた。

 入店3カ月が経つころにはグランドメニューのレシピは全部覚えて、ちゃんとその通りに作れるようになっていました。

 そのときに覚えたレシピが俺に現実を教えてくれた教科書であり、超勉強になった3カ月間の肝だったのです。

(リュウジ・著『孤独の台所』では、過酷な3カ月を経て気づいた家庭料理の本質、そこから「バズレシピ」にたどり着くまでの経緯について語っています)

孤独の台所
こちらの記事もおすすめ 「料理は最高のコミュニケーションツール」 リュウジが人と仲良くなる過程で「武器」になったパスタとは?
[AERA最新号はこちら]