「料理の世界はこんなにキツいのか」

 そんななか店長から、ゴールデンウィーク中は休まないでほしいとお願いがありました。大量のお客がやってきてマジで儲かるからというのが理由です。だから5月の連休は休めませんでした。

 そのときに、ホテルってまだ楽だったんだと気づきました。なんであんないい仕事を辞めちゃったんだろう。料理の世界はこんなにキツいのか。俺は仕事としての料理をなめていたんです。

 でも、これはまだ挫折の序章にすぎませんでした。

5分の茹で時間を短縮

 朝の仕事は掃除、そして仕込みから始まります。

 きょう一日に使う魚介の下ごしらえをして、野菜を洗う。サラダが有名な店だったから、野菜の下ごしらえは気を抜けません。レタスをちぎって、シンクに水をためてからレタスを投入する。そうするとパリッとして良い歯ごたえになるんです。大量のレタスの水気をスピナーでとって、タッパーに入れて冷蔵庫で冷やす。

 そしてお湯をわかして、パスタを茹でる。乾麺を茹で置きするんです。

 乾麺は茹で上がるのに5分は確実に時間を取られる。オーダーが入ってから5分かけて茹でていては、めちゃくちゃ忙しいランチタイムではとても間に合いません。

 だから先に何分かは茹でておく。ちょっと柔らかくさせておいて、歯応えとしてはかなり硬めのアルデンテにするわけです。そして仕上げのときに茹で加減を調整して、完全なアルデンテにするんです。

 茹で置きには他にもメリットがあります。食感がちょっともっちりするんです。

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