「絶対にこの男の人生を潰してやろう、という思いに駆られたんですよ。絶対に逃がさない、絶対に潰してやるって。だからできたのだと思う」

 ハッとした。男はまだ幼さが残る学生だった。でも、彼女は絶対に「こいつの人生、潰してやる」という強い思いに駆られたというのだ。それはなかなかの覚悟だ。日本では性加害者が若くて高学歴な男性だったりすると、「彼には未来がある」とその暴力性を低く見積もるようなことを言う人が少なくない。もしかしたらこの社会に欠けているのは、彼女がとっさに感じたような、性暴力に対する強い怒りや激しい嫌悪なのではないかと気が付かされる。未来しかないはずの20代男性の性犯罪を目撃し、「絶対に許さない!」と、怒れる人が多数派の社会だったら、こんなにも女性たちが性的な嫌がらせに苦しむ社会ではないのではないか。そんなことを思わずにいられない。

 毎日のように性に関する事件のニュースが、この国では流れてくる。先日も、富山県のメンズエステ店で性的なサービスを行ったとして、風営法に違反した疑いで性風俗店の経営者らが逮捕された。それ自体は「珍しくない」事件かもしれないが、経営に関わっていたひとりが富山大学の准教授の男だったせいか、大きく報道されていた。女性を“売る”大学教員の存在は、日本社会が行きつくところまで行ってしまったのではないかと思わせるに十分なインパクトがあった。何より驚いたのは、男が防災研究の論文を書いていて、市民の命を守る提言を行政に対し行っていたことだ。男性客と2人きりで個室に入れることは女性を危険に晒すことだと私は思うが、その男性教員にとって、「市民の命を守る」ことと若い女性の性を売買することは矛盾しなかったのだろうか。徹底的に男の性欲に寄り添いながら、女の安全や安心を軽視する、そんな空気がこの国の日常になっているのではないか。

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