私が駅で見かけた男は、とても若かった。重たそうなカバンを肩から斜めにかけ、どこにでもいそうな感じのよい営業マンっぽい、平凡な働き者の顔つきをしていた。だからこそ余計に混乱する。これから出勤する、“真面目そう”な若い男が、見ず知らずの女性の体を触るという暴挙に出るとは、どういう心理なのだろう? なぜそんなことが「できる」と思えるのだろう? 私は少しパニックになりながら、その場からなかなか立ち去れずに、男の顔をしばらく見つめた。
性の事件が後を絶たないこの社会で、私たちが当たり前のように痛み、怒り、パニックになる。そんなことが必要なのかもしれない。