アスレチックスと契約を結んだ森井翔太郎(左)と桐朋野球部の田中隆文監督(桐朋学園提供)
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 毎年多くの東大合格者を出す進学校から、野球でメジャー入りを目指す選手がいる。桐朋高校(東京・国立)3年の森井翔太郎(18)だ。1月に大リーグ・アスレチックスと150万ドル(約2億3000万円)を超える破格の金額でマイナー契約を結んだ。いわゆる野球強豪校ではない進学校にいながら、森井はどのように成長したのだろうか。米国アリゾナのキャンプ地で練習に参加している森井にオンラインで独占インタビューするとともに、桐朋野球部の田中隆文監督、森井の母・純子さん(49)に話を聞き、その秘密を探った。

【写真】森井が母親とコミュニケーションを取るために交換してきた「野球ノート」

「ほかの学校のことはわからないんですけど、桐朋は先生たちがああしろ、こうしろっていう雰囲気はないですね。そこで自然と、自分がやりたいことをずっと考えられたのかな」

 桐朋で学んだ良さについて聞くと、森井はそう答えた。

小学校から高校まで12年の「桐朋っ子」

 森井は小学校から高校まで12年間、ずっと桐朋で学んできた「桐朋っ子」だ。中高一貫校である桐朋は、東大・京大・一橋大・早大・慶大など難関校への合格率が高く、2024年の東大合格者は12人。ほとんどの卒業生が大学に進学する。とはいえ、受験に向けた詰め込み教育をするのではなく、生徒一人ひとりの自主性を重んじるのが特徴だ。桐朋祭(文化祭)などの学校行事は本格的で、生徒自らが考え、仲間同士で話し合い、時間をかけて作り上げていく。構内には桐朋学園小学校もあり、子どもたちが元気に走り回っている。小学校に通信簿はなく、心身ともにたくましく成長することを目指す方針だ。

 母親の純子さんは桐朋を選んだ理由について、こう話す。

「翔太郎は幼いころから、あんまり人からこれしろ、あれしろと言われるのが好きじゃない子で、桐朋の自由な校風がすごく合っていそうな気がしたんです。型にはめられない教育のほうが伸びるかもしれないと小学受験をさせました。実際、温かく見守っていただけるようなところが、翔太郎に合っていたと思います」

 森井自身も「桐朋は好きな雰囲気で、自分にフィットしていると感じていた」と言う。

「周りの友達も、好きなことがそれぞれあって、ゲームが好きだったり、遊びに行くのが好きだったり。自分の好きなことをめいっぱいやれている友達がたくさんいて、自分は好きなことが違うだけ。そういう仲間がいる環境はよかった。目標が医学部に行って医者になりたいだったり、それぞれ明確な目標がある中で、自分はその目標がメジャーリーグだった」

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目指すゴールが「甲子園」ではなかった