FA権の行使は選手の野球人生を大きく左右する。長年プレーして勝ち取った権利であり、ドラフトで指名され入団した球団以外でプレーすることを、自分の意思で選べるチャンスとなる。
今年取得したFA権を行使するかどうかが注目されているのは、26年ぶりの日本一に輝いたDeNAで、首位打者獲得の経験を持つ巧打者・佐野恵太だ。
入団時は無名の存在だった。広陵高(広島)では甲子園出場はかなわず、明大ではリーグ戦通算打率.270、6本塁打、33打点。一塁手として3年秋と4年春にベストナインに輝いたが、一塁は助っ人外国人や長距離砲が守ることが多いため、プロのスカウトの評価が上がらなかった。2016年のドラフトで、大学同期の柳裕也が中日の1位、星知弥がヤクルトの2位で指名された中、佐野はDeNAの9位で指名された。
入団から数年は1軍と2軍を行ったり来たりしていたが、19年オフに筒香嘉智がメジャー挑戦で退団すると、当時のラミレス監督が筒香の後継者に佐野を指名する。20年から主将(23年まで)に就任し、「4番・左翼」に抜擢された。「荷が重い」と活躍に懐疑的な見方があったが、20年に打率.328、20本塁打、69打点とブレークして首位打者を獲得。同年から3年連続打率3割をマークし、22年は最多安打のタイトルを獲得するなど、球界を代表する巧打者の地位を築いた。
「内角のさばきかたが天才的に巧い。試合中の修正能力が高いので、前の打席で三振した球にもきっちり対応してくる。打たなくても打線にいるだけで嫌な存在です」(他球団のスコアラー)
だが、今年5月に筒香がチームに戻ったこともあり、佐野の「不動のレギュラー」の地位は微妙になっている。今季は打率.273、8本塁打、62打点。CSで打撃の状態が上がらず、日本シリーズでは第5戦、6戦とスタメンから外れ、筒香が左翼に入った。日本一を決めた第6戦は5回に代打で出場して右前打を打ったのはさすがだが、これで来季の地位が確約されたわけではない。外野のレギュラー争いは熾烈だ。筒香、梶原昂希、桑原将志、蝦名達夫に加えて度会隆輝が控える。古巣の一塁には今季首位打者に輝いたオースティンがいる。