同時に、国が果たした役割も大きかったと安田さんは言う。

「国は、関東大震災の際、『朝鮮人が暴れまわっている』といったデマや流言を否定しませんでした。それどころか地震から2日後の9月3日に、千葉県船橋市にあった旧海軍の無線基地から、当時の治安のトップであった内務省警保局長が、全国の地方長官(知事)に『震災を利用して朝鮮人が各地に放火している』『厳密に取り締まるよう』といった電文を送信しています。デマや流言が独り歩きしたのではなく、国が補強していったのです」

 歴史は、ときに形を変えて繰り返す。

 関東大震災から1世紀以上たったが、災害があるたびに流言やデマがはびこる。元日の能登半島地震では、「外国人窃盗団が能登半島に集結している」といった根拠もない偽情報などがSNSで拡散した。SNSには在日コリアンへのヘイトスピーチがあふれ、最近は、埼玉県に住むクルド人を「テロ組織の一員」だとし、日本人の安心・安全を取り戻すとする「自警団」もできた。漂う空気は今も同じだ。

「流言は智者に止まる」一人一人がリテラシーを

 流言やデマに惑わされないためにはどうすればいいのか。

 東京大学の関谷教授によれば、流言には(1)地震などの災害が再び起きるという「再来流言」、(2)避難所で性犯罪が起き窃盗団がうろついているといった「被害流言」、(3)災害は誰かが予測していたという「後(あと)予知流言」──の3パターンがあるという。

「流言が人々の不安から生まれる以上、それ自体を防ぐのは不可能です。しかし、流言にパターンがあることを知っておけば、情報に接した時に流言の可能性が高いかどうか判断することができます」

 中国の戦国時代の思想家・荀子(じゅんし)は、「流言は智者に止(とど)まる」という格言を残した。知恵のある人はそれを他人に話さないから、流言はそこで止まるという意味だ。関谷教授はこの格言を引用し、「一人一人がリテラシーを持ってほしい」と言い、こう提言する。

「流言の可能性が高いと思ったら、伝えずに広げない。それを一人一人心がけることが、最大の対策に繋がります」

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歴史を知ることが重要