「コバホーク」への期待は空振りに
確かに、政治部記者から見ると、こんなことは数年前までは考えられないことだったかもしれない。永田町の論理と慣習に浸り切った記者たちが舞い上がるのは無理もない。
しかし、記者会見で露呈したのは、小林氏には、国民が期待するような「変革」を起こす気力も能力もないということだった。裏金問題については、再検証を否定。政治資金改革を前に進める具体策は全く示せなかっただけでなく、役職から遠ざけられている旧安倍派議員たちの処遇を暗に求める発言までして驚かせた。
不出馬宣言の会見で岸田首相が語った後継総裁への唯一の期待である、改革努力を後戻りさせない人という条件に完全に背くものだ。
こうした批判を気にしたのか、後に政策活動費の10年後という使途公開年限を大幅に短縮する案を示唆したが、批判されてからの提案では本気度が疑われる。
さらに旧統一教会との親密な関係について問われても、だれも信じないような「知らなかった」「記憶にない」というスキャンダル議員の常套句を使うのみで、疑惑の払拭には程遠かった。
政策で見ても、全く新味はない。自民党の右翼層に近く、彼の狙いは、安倍晋三元首相暗殺後にほぼ崩壊状態となった旧安倍派に属する右翼議員の賛同を集めることだ。現に、脱派閥と言いながら、同席した24人のうち旧安倍派が11人だった。その一人、旧安倍派のプリンスと呼ばれる福田達夫元総務会長は、自分たちがそれぞれ「派閥の領袖」たちに仁義を切ったと発言している。要するに、若手立候補で自民党のイメージを変えたいという長老たちの意向に支えられての立候補だということが透けて見える。その他の参加者でも、小林氏が所属していた旧二階派が4人、いまだに派閥に属する麻生派議員3人などがいて、純粋な無派閥議員はたったの4人しかいなかった。脱派閥の看板に偽りありである。
自民内はともかく、国民から見れば、コバホークへの期待は結局空振りに終わったと言ってもよい。
自民変革の切り札ともてはやされる小林氏がこれであるから、他の候補にも自民を変える期待をかけるのは難しいと考えたほうがよさそうだ。
例えば、立候補に意欲を見せる茂木敏充幹事長は、最後まで派閥解消に抵抗していた人で、裏金には直接関わっていなかったが、それとは別の手法で政治資金の使途を隠していたことがわかっている。党内で人望がなく、本来は立候補さえできないはずだが、解消したはずの旧茂木派の支援があるからこその立候補ということで、「変革者」にはなれない。
同じ旧茂木派で立候補を模索している加藤勝信元官房長官も旧大蔵省出身の守旧派だ。
岸田首相のお膝元の旧岸田派からは、上川陽子外相が立候補の意欲を見せている。だが、この人も、女性であるという以外は何の変哲もない、変革者とは程遠いただの自民党政治家にすぎない。