「川が多い東京や大阪では、地震によって発生した津波は、海からも川からもあふれることが考えられます。ひとたび陸地に上がった津波は、建物の間を縫うように四方八方に広がりながら進み、どこから水が来るのかわからない状況になります」

 都市型津波に襲われやすいのは、海水面より標高が低い「海抜ゼロメートル地帯」が多いという。東京では江戸川区や墨田区など都内東側、大阪では大阪湾を中心に兵庫県の甲子園球場あたりまで、名古屋も名古屋市を含む濃尾平野にゼロメートル地帯が広がる。

「その際、前から迫る津波に気を取られていると右から来た津波に巻き込まれたり、両方向から同時に襲われる危険性もあります」

都市型津波で「縮流」

 あと一つ、有川教授が都市型津波で警鐘を鳴らすのが、「縮流(しゅくりゅう)」だ。

「広い場所から狭い場所に津波が流れ込むことで、津波の威力が増大する現象です。特に大都市は強固な建物が数多く、道幅が狭くなる場所も多いので縮流が起きやすいと考えられます」

 縮流によって、水が集中して高さと勢いが増し、立っているのが困難なほどの威力になる可能性もある。さらに災害時は、がれきなどが流れてくるため水の中は危険が増すという。

 津波から命を守るにはどうすればいいか。有川教授は「津波が来る前に、浸水エリア外や強固な建物の高い場所に逃げることが重要」と言う。

「例えば、高さ5メートルの津波が予測されていれば、一般的には4階建て以上の建物に避難すれば少なくとも津波によって流される心配はありません。海や川から2、3キロ離れて暮らす人も、地震による津波が来る可能性はゼロではないということを十分に認識して、日ごろから津波が来たらどこに避難すればいいか、考えておいてほしい」

 京都大学の伊藤准教授も、事前の心構えが重要だと説く。

自地域の地震の特徴は

「スロースリップが起きている時は、巨大地震の発生確率が高まっていることは間違いありません。スロースリップが続くのは2週間から4週間程度ですが、その間、巨大地震が起きるかもしれないと思って過ごすのと、何も考えずに過ごすのを比べれば、実際に地震が起きた時の行動は全く違ってきます」

 東北大学の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は、「地域によって起きる地震のタイプは異なるため、自分が住む地域の地震の特徴を把握しておくことが大切」と話す。

「例えば、南海トラフ巨大地震が起きたら自分が住む町はどれくらい揺れ、何メートルの津波が来るのか。あるいは、自分が住む地域の下にはどのような活断層が走り、地震の際の揺れの大きさや液状化、斜面崩壊、通行止めの可能性など。こうしたことを把握して、自宅の安全対策や水や食料など普段から備えておくことが重要です」

 備えても備えきれない。それでも、「次の巨大地震」への備えをすることは大切だ。(編集部・野村昌二)

AERA 2024年5月20日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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