「スーパー南海地震」
伊藤准教授は、「どんなにモニタリングを強化しても発生の予測は困難」と言う。なぜか。
「スロースリップは、地震の引き金に過ぎません。重要なのは、プレート同士の境界でどのくらい巨大地震を発生し得る状態までひずみが蓄積されているかどうか。それにはスロースリップの時空間的な広がりを高精度で捉えることが必要ですが、まだ時間がかかります」
南海トラフ巨大地震が起きれば、東海から九州の広範囲で10メートル以上、高いところで34メートルの津波の襲来が想定される。死者数は最悪の場合、32万3千人。立命館大学の高橋学特任教授(災害リスクマネジメント)は、被害がさらに大きくなる可能性を指摘する。
「地震は単体で捉えるべきではありません。南海トラフと相模トラフが連動して大地震が起きる可能性もあります」
相模トラフは伊豆半島の東側の相模湾から房総半島沖へと延びたトラフで、1923年の関東大震災の震源域となった。
この相模トラフと南海トラフとが連動する大地震を「スーパー南海地震」と高橋特任教授は名づけた。この地震が起きれば関東から沖縄・台湾までフィリピン海プレート沿いの広範囲が被害を受けることになる。高橋特任教授が東日本大震災のデータをもとに計算したところ、スーパー南海地震で、津波だけで47万人以上の死者が出るという。中でも、危険性が高いというのが「山の手」だ。
津波が江戸川を遡って
「東京の山の手には、神田川や目黒川、善福寺川など様々な川が流れて『谷』をつくっています。そうした場所は、地震による揺れで地滑りを起こしやすく、海から津波が遡(さかのぼ)ってくると水位は一気に上がります。海や川から離れていると思い安心していると、危険です」
津波はさらに江戸川などを遡り、埼玉県東部の春日部や幸手あたりにまで到達する可能性があると高橋特任教授。
「大阪では、大阪城の東側に広がる河内平野も津波による被害が心配されます。河内平野は江戸時代まで湖だったのを干拓し陸地にした場所。地震で地盤沈下しやすく、淀川などからの水で浸水することも考えられます」
津波のメカニズムに詳しい中央大学の有川太郎教授(海洋工学)も、南海トラフ巨大地震による「都市型津波」の危険性を指摘する。