撮影に取材にと多忙を極める。でも楽しいと思えるから続けられる。「休みたいって思わないんですよね。1日空くとソワソワしちゃう」(藤井)[撮影/高野楓菜]

「いつか読書する日」などで知られる脚本家の青木研次(66)は3年次から藤井を教えた。

「柔らかくて、人懐っこい。脚本コースに来る子は割と暗いから(笑)、珍しいタイプだと思った」

 と振り返る。青木が身を置いてきた映画界は監督を頂点にしたピラミッド型のボーイズクラブだ。藤井にはそれとは違うスタンスも感じたという。

「強権発動型ではないし、最初から『食うに困らない方法で映画をどうやって作っていくか』考えていたような気がする。俺たちの時代とは、ちょっと違うなって」

 藤井も意識的に「違う」を模索していた。大学1年のとき、ある現場に助監督として行った。深夜まで働いても「勉強」だから当然ノーギャラ。理不尽なことで怒鳴られもする。映画は作りたい。でもいままでの方法ではいやだ。ならば、これまでとは違うルールを自分たちがつくればいい。

 藤井はハイクオリティーのデジタルビデオカメラや編集ソフトに触れられたデジタルネイティブファースト世代だ。プロに頼むと50万円かかる動画制作を学生価格の5万円で請け負った。撮影、監督、編集、納品まですべてできる藤井は重宝され、仕事が次々と舞い込んだ。卒業後もフリーで活動し、お金を貯(た)めてはアパートの一室に仲間と集まり、自主制作映画を50本以上作り続けた。

 いまも多くの藤井作品で撮影を担当するカメラマンの今村圭佑(35)は藤井の2年後輩で、当時からの付き合いだ。「いまや冷えきった夫婦のような関係」と笑わせながら振り返る。

「僕も大学生だったし、スタッフも俳優もプロじゃない。でも“ない”ところからどれだけいいものにするか。もっと、もっと良くしようという気持ちはお互いにあって。それぞれが研究して、経験を持ち寄って、トライ・アンド・エラーしながら一緒にやってきたという感じですね」

 そして26歳の藤井に大きな転機がやってきた。

 大学時代から藤井の脚本の腕を買っていたプロデューサーの奥山和由に、伊坂幸太郎原作「オー!ファーザー」の脚本を任された。伊坂本人が気に入り、脚本家として映画化に関わる。がクランクインの半年前に監督が降板し、急遽(きゅうきょ)「藤井、やる?」と言われた。「やります!」と即答した。

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