「完成したとき『これ、おもしろいのかな?』ってなった映画は初めてだったんですよ。知れば知るほど、この映画を世に出すことが怖くなった感情もあったと思う。でもいいや!って。これは河村さんの企画だし、河村さんが考えていることをたぶん、ちゃんと映像化できたなと」

 そして出来上がった「新聞記者」は日本映画界に一石を投じるヒット作になった。河村とのタッグで「ヤクザと家族 The Family」、ドラマ「新聞記者」と次々に作品を作る。河村は決してやりやすいタイプのプロデューサーではない。撮影中「だって思いついちゃったんだもん」とたびたび変更を迫る河村を前に、次々と監督が降板する。だが藤井とは相性がよかった。

「デジタルネイティブ初号機の特性でもあるんですけど、自分にとって一回やってみることはそんなに難しくないんです。5分しか変わらないなら、じゃあ一度やってみるかとトライ・アンド・エラーができる。自主映画時代からそうやってきたから」

 だが「ヴィレッジ」撮影を終えた2週間後に河村が急逝する。闘病していたことは行実以外、誰も知らなかった。亡くなる1週間前にも焼き肉屋で次回作「パレード」の企画を話し合っていた。

「最後の友達っていうか、かわいいおじいちゃんでした。もっと一緒に遊びたかったな、みたいなのはありますね。でも彼の企画がまだ何本も残っているし、彼の熱意とか愛情のようなものは僕らが引き継いで頑張んなきゃという思いです」(藤井)

 最新作「青春18×2 君へと続く道」は藤井の祖父のルーツである台湾との念願の合作映画だ。ヒロイン・アミを演じた清原果耶(22)は藤井と3度目のタッグ。藤井を「役者と一緒に歩んでくれているのがわかる監督」だと言う。

「監督によっては『このシーンで泣いてください』とダイレクトに言われることもあるんです。でも藤井さんは違う。役者が考える余地を残してくれるし、感情を無駄に消耗させない。やっぱり役者もロボットではないから。役への責任を平等に持って作品作りができる。そんなイメージです」

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