前出のカメラマン、今村はそんな藤井を「作品作りお化け」と呼ぶ。

「作りすぎ、みたいな意見も周りにあると思うけど、それ以上に撮りたいものがいっぱいあるんだろうなと。誰もが持っている『自分に飽きてくること』への恐怖心を藤井さんは映画を作ることで解消しているというか、あんまりできない選択だとは思います」

 藤井は40歳を一区切りに、監督業のみならず視野を広げる決意をしている。拠点を移すのか、職業を変えるのかはわからない。

「考え始めたのは、河村さんが死んでからですかね。急に友達がポコッといなくなったっていうか、信頼できるファミリーはいても、自分がちょっとすり減っている部分は正直あって」

 後進のことも考えている。旧態依然とした映画業界のままでは若い世代は入ってこない。ゲートを開けたうえで、バトンを渡したいと言う。

「映画監督ってかっこいい仕事だよと、教えてあげるには、態度で示さないと」

 前出の綾野も伴走者のひとりだ。

「現状に凝り固まらないために、時に背中を支え、肩を叩き、見える景色は一緒っていうところに、みんなでいけることが大事だと自分も思っている。そして同じ思いをシェアできる仲間と出会う努力をしていく。それは新しい時代、というよりは『これからの時代』なんだと思います」(綾野)

 これからの映画界へ。道しるべを刻む旅はまだ終わらない。

(文中敬称略)(文・中村千晶)

AERA 2024年4月29日-5月6日合併号