俳優の綾野剛(42)も同じ意見だ。「ヤクザと家族 The Family」で出会ってから、公私ともに付き合いがある。

「藤井監督はどうすれば現場が良くなるかを常に考え、修正や変化、進化を恐れていません。監督が各部署をリスペクトされているので、現場全体が監督を信頼し、どうしたら良い作品、現場になるかそれぞれが自分事として考え、ワンチームになる事ができる。藤井監督とは映像や作品を通して繋がっている以上に、家族のような存在です」

映画監督はかっこいい 後輩に態度で示したい

「一回成功したものをもう一度、こすりたくない」と藤井は言う。社会派、ヤクザ、ラブストーリー。ジャンルにこだわらず縦横無尽にかけめぐり、来た球は打ち返す。ただし自分のなかで咀嚼(そしゃく)して、相手の想像を超える大きなヒットを飛ばす。藤井作品に通底するものを前出のプロデューサー・行実は「点描とメタファー」と表現する。

「例えばメタファーでいえば、『新聞記者』で美しく黄葉していたイチョウがきれいに散ってゆく様は、官僚が自分のキャリアと正義を秤(はかり)にかけ、葛藤に重ねた比喩だと思う。『ヴィレッジ』の霧は社会に漂うもやっとした空気感を表している。単に印象的なシーン、ではない。彼は物を届ける側の責任として、映像や小道具、すべてに意図をもってやっている」

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