子育てを困難にしている最大の要因は「孤立子育て」だという。親子が孤立しないよう、社会全体で見守る安全網を築く必要がある(写真:Getty Images)
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 子どもへの虐待が、後を絶たない。専門家は、「不安定な生育環境が虐待に繋がる」と指摘する。求められるのは、子育てに苦しむ親への支援だ。AERA 2024年4月1日号より。

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 幼い子の命がまた虐待で奪われた。

 東京都台東区のマンションで、当時4歳の女児が薬物などによる中毒で殺害され、2月に両親が逮捕された。女児は、誕生直後から両親から虐待を受け、亡くなる半年前からは顔などに傷が目立つようになったという。

 子どもへの虐待が、後を絶たない。警察庁のまとめでは、2023年に警察が児童相談所に虐待の疑いがあると通告した18歳未満の子どもは、12万2806人となり、前年比6.1%の増。統計が残る04年から19年連続で増えた。

 児童虐待防止に関わる研修と研究機関「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の増沢高副センター長は、家庭内の児童虐待が増え続けるのは「周囲の目に留まりにくく表に出ずに潜在化していたものが、人々の関心と気づきの目によって顕在化した結果」と指摘する。

「虐待で児童が死亡する事件の報道による社会的な関心が高まり、虐待が疑われる子どもを見つけた時の通告義務が00年に施行された児童虐待防止法に明記され啓発されたこと、そしてこれを受けた児相が家庭に積極的に介入することによって表に出るようになってきました」

 そもそも、虐待をしてしまう親の背景には何があるのか。

「不安定な生育環境が誘因となって雪だるま式に困難を増やし、虐待に繋がっているケースが多い」

 そう指摘するのは、神経科学者で、親子関係の脳の研究に取り組む東京工業大学の黒田公美教授だ。

 黒田教授らの研究チームは、06年から18年の間に児童虐待によって実刑判決を受けた男26人、女12人の計38人に調査を実施。どのような要因が子育てを困難にしていたかについて(1)「子育て時の環境」、(2)「小児期の逆境体験」、(3)脳に直接影響を与える「神経生物学要因」──この三つに分けて調べた。その結果、男女とも(1)の「子育て時の環境」の影響が最も大きく、三つの要因のうち二つ以上の困難を抱えている人を含めると男性は80.8%、女性は91.7%に及んだ。

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