AERA 2024年4月1日号より

「さらに、子育て時の環境を細かく見ていくと『孤立子育て』が最も大きく、他にも『複雑な家族関係』『DV被害』『貧困』『ひとり親』など、本人を取り巻く環境が影響していることがわかりました」(黒田教授)

一つのリスクがその後に別のリスク要因を招く

 (2)の「小児期の逆境体験」は、「最終学歴」や「保護者の変更回数」が影響し、(3)の「神経生物学要因」は特に女性は薬物やアルコールといった「依存症」の影響があったという。

「こうした環境や体験が、虐待に直結するわけでは決してありません。しかし、幼少期における被虐待などの不安定な生育環境は低学歴につながりやすく、低学歴は貧困を招きます。そして、これらが複合すると複雑な家族構成や孤立子育てが起こりやすくなります。このように、一つのリスクがその後に別のリスク要因を招き、その連鎖によっていくつもの要因が同時にのしかかり、育児困難になり、虐待につながる可能性が高くなります」

 しかも、虐待された子どもを児相が保護しても、養育者のケアをしないまま家に戻せばまた虐待が起こる。こうしたことから黒田教授は、子どもの虐待を防ぐには「虐待をした養育者(親)への支援が重要」と強調する。

「例えば、日本はひとり親になった時の支援が諸外国に比べ薄く、OECD(経済協力開発機構)で比較すると、21年時点でひとり親の相対貧困率は加盟国など43カ国中3位です。こうした経済的支援をはじめ、幼い時の虐待経験がある人には心理的な支援、薬物やアルコールへの依存症には医療的な支援、低学歴になるのを防ぐ就学支援など、それぞれの背景に合わせたきめ細かい支援が必要です」

 また、体罰を使わない様々な「養育者支援プログラム」があり、児相などで受けることができ効果が期待できる。だが、虐待を疑われる事案が次々に入ってくると児童福祉司が対応に追われ、支援にまで手が回らない。虐待を理由に保護された子どもの親がプログラムにつながるのは、5%以下だという。黒田教授は「児童福祉司の数を増やす必要がある」と言い、さらに続ける。

「支援が必要な親ほど、窓口には来られません。子育てに苦しんでいる親のもとへ支援者が出向いて訪問するアウトリーチも必要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年4月1日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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