冒頭の「世界中のこどもたちが」を発表した翌88年、25歳の新沢は「さよならぼくたちのほいくえん」を作詞した(作曲は島筒英夫)。保育園で働いた経験と、新沢ならではの感情をちょっと俯瞰してみる感覚で書かれた詩は、聴く人の心にすっと入っていく。
「保育園」を「幼稚園」や「こども園」に変え、いつからか毎年春の卒園シーズンを席巻するようになったこの歌。新生活に思いをはせながら元気いっぱいに歌う園児とは対照的に、見守る大人たちはいつも泣いている。
いま新沢は、シンガー・ソングライターとしてのソロ活動やコンサートに加え、現場の保育士向けの研修会や講演会のために全国各地を飛び回り、多忙な日々を送っている。自治体や保育園などのテーマソングの依頼も途切れず、19年と20年には「にじ」が立て続けにテレビCMに採用された。保育現場で浸透した歌がテレビでも使われるという“逆輸入”現象は、とても珍しいことだという。
園や小学校で歌われ こんな豊かな人生はない
新沢が子どもに関わる仕事をするようになって、約40年。子どもは変わりましたか──。
「僕は、どんな時代も変わらないと思うんです。布おむつだったのか、紙おむつだったのか。空調が整っていたのか、いないのか。取り巻く環境は時代によって変わっていくけれど、何かを感じる心までは変わらないからです。そして、人間の脳の仕組みは同じだけど、全員ちょっとずつ違って、それでいいことも変わりません」
そう即答した新沢は、子どもの歌の世界に若手のスター作家が登場してくれることを願っているという。「僕らがもっと頑張って、憧れてくれる世界にしなきゃいけないですね」と言ってから、しみじみと言った。
「僕は、いわゆる大スターではないし、子どもたちは僕のことを知らないけれど、全校児童が『にじ』を歌っている様子を見たり、卒園式で『さよならぼくたちのほいくえん』の大合唱があったと聞くと、ああ幸せだなと思います。こんな豊かな人生はないですよ。これからも変わらぬ想いで歌を作り続けます」
(文中敬称略)(文・古田真梨子)
※AERA 2024年3月18日号