子どもの歌は詠み人知らず 僕の持ち歌じゃない
多くの人が一度は耳にしたことがあるであろうこの歌は、37年前の1987年、当時24歳だった新沢が作詞し、元保育士で絵本作家でもある中川ひろたか(70)が曲をつけて、幼児音楽教育の総合月刊誌「音楽広場(現・クーヨン)」(クレヨンハウス)に発表したものだ。
まだYouTubeはもちろんのこと、インターネットも普及していなかった時代。「発表」といっても楽譜が掲載されただけだったが、現場の保育士たちがピアノで弾き、子どもたちが歌い、それを聴いた親たちの評判を呼ぶというサイクルを繰り返しながら、じわじわと広がってきた。
全国区の人気を獲得している歌だが、マネジャーの田辺泰彦(50)は、営業先で「作詞した新沢さん、まだ生きてるんですか?!」と驚かれたことが何度かあると笑う。新沢も楽しそうに、こう話す。
「子どもの歌は“詠(よ)み人知らず”の雰囲気が強くて、無名性が高い。保育園などに歌いに行くと、目の前に座った子どもたちに『おじさん、どうして僕たちの歌を知ってるの?』と言われることがよくある(笑)。子どもの歌は、僕の持ち歌じゃない。みんなが歌うもの。我ながら不思議な仕事だなと思います」
この日のファミリーコンサートでは、同じく新沢が作詞し、中川が作曲した「にじ」(90年)や、新沢が作曲し、原作者のエリック・カールから公認をもらった「はらぺこあおむしのうた」(2000年)なども披露された。どちらも育児雑誌に楽譜が載った日をスタートとして、数十年かけてほぼ口コミで広がり、子どもたちの世界にすっかり溶け込んでいる名曲だ。
栃木県小山市から2人の娘を連れてコンサートにやってきた本橋あずさ(37)は、
「新沢さんの歌は、子ども自身がちゃんと意味をわかった上で歌っている。だからより温かく感じるし、私は号泣してしまうことがあります」
と話す。赤ちゃんの歌では物足りない。アイドルが歌う流行(はや)りの歌は、歌えたとしても理解は難しい。そんな世代に、新沢の歌は見事にはまっている。