東京・下北沢の自社スタジオ屋上で。つながる空の下、今日も誰かが新沢の歌を歌っている(撮影/山本倫子)
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 新沢としひこの名前を知る人は、たぶんそう多くない。けれども歌を聞けば、ピンとくる人はたくさんいるだろう。たとえば「さよならぼくたちのほいくえん」。多くの幼稚園、保育園の卒園式で歌われ、その歌詞に、姿に、親は涙する。新沢が作る子どもの歌は、大人をも夢中にさせてきた。いつの時代も変わらない子どもたちのために、思いを込めて歌う。AERA 2024年3月18日号「現代の肖像」より。新沢が歌うオリジナル動画も一緒にお送りする。

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 1月28日の日曜日は、時折吹く風は冷たいものの、よく晴れた一日だった。

 シンガー・ソングライターの新沢(しんざわ)としひこ(61)は、東京・渋谷の伝承ホールの控室で、

「僕が着るとパジャマみたいって言われるんだよね(笑)」

 と冗談を言いながら、パステルカラーの衣装に袖を通していた。まもなく、自身が社長を務める音楽事務所「アスク・ミュージック」の所属アーティストが総出演するファミリーコンサートが始まる。約350席のチケットは完売。開演を待つ客席は、幼い子ども連れの親子が目立ち、とてもにぎやかだ。

 午後2時、開演と同時にステージに飛び出した新沢は、他の出演者とともにノリの良い曲を次々に披露し、一気にテンションを上げていく。そして、会場がすっかり温まった頃、客席に向かって穏やかな声でこう語りかけた。

「今年は、お正月から地震がありました。いま、戦争をしている国もあります。文字通り世界中の子どもたちが一度に笑っていてくれたらいいな、と思って作った歌を、願いを込めて歌いたいと思います」

 歌ったのは「世界中のこどもたちが」。客席にいる子どもも大人も、誰もが自然に身体を揺らし、歌声を重ねていく。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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