未婚男性が備えとして精子凍結を行う最大のメリットは、言わずもがな若いときの精子を保存しておけることにある。また、卵子凍結に比べると、費用的な負担も少なく、不慮の事故や病気などへの備えにもなりうる。
精子凍結のデメリットとは
だが、デメリットもいくつかある。まず、精子は凍結すると、融解時に一定数が死滅するほか、凍結前の精子と凍結融解後の精子では、凍結融解後の精子のほうが、運動率の低下など所見が下回る場合がある。そして所見によっては、不妊治療における治療選択の幅が狭まる可能性もある。こうした点を踏まえて、若いころに精子を凍結し将来融解したものが、40歳以上の新鮮な精子と比較してどの程度優位といえるかのデータはまだ存在していない。そのため、クリニックでは「加齢を理由に精子凍結を検討している場合には、その必要性について十分検討を」と促すなどしている。
さらに、未婚の健康な男性が凍結保存する精子は、保険適用の不妊治療に使うことはできず、自費診療扱いになる。そのため、いざ凍結した精子を使うとなると、高額の治療費が発生する。
「こうしたことから、精子凍結は、将来に対する幅広い保険とはいえず、使い道が限定された保険となります。それでも将来のために精子凍結したいという方は一定数いらっしゃいますが、女性の卵子凍結ほど広がることはないように感じています」(はらメディカルクリニック培養士・荒井勇輝さん)
4人に1人が精液所見が悪化
一方で、近年、世界的に精液の質が低下していることが認識されるようになっている。
「これから子どもを希望する男性の4人に1人は、すでに精液所見が悪化している傾向にあります」(順天堂大学医学部素族浦安病院・辻村晃教授)
辻村教授は、これから結婚する、あるいは結婚後に積極的に子どもを希望するという平均年齢35歳の男性564人を対象に精液検査を行った。すると、精子濃度、精子運動率、精液量のいずれかが基準値を満たしていない人が全体の143人(25.4%)に上り、4人に1人の精液所見に問題があったという。
「晩婚化による加齢以外にも、食事や睡眠など生活習慣の悪化、ストレス過多も影響していると見られています。普段何気なく行っている生活習慣は、男性の精子力、勃起力、また性欲に多大な影響を与えます。不妊の原因となるような習慣には注意しましょう」(同)