(写真はイメージです/gettyimages)

 意外なところで、⑥の禁欲も望ましくないという。長い禁欲期間を設ければ、精子がたまり妊娠力が上がるのではと考えたくなるが、禁欲期間が長すぎると、精子数は増えても、運動率が下がる傾向があるという。

「精子はおよそ3日間生存すると考えられているため、禁欲期間は1~2日程度がベスト。それ以上だと死滅精子が増える可能性があります」(辻村教授)

効果検証はこれから

 男性の場合、50代や60代、70代で子どもができたというニュースを聞くことがある。それを武勇伝のように捉え、「男性は何歳になっても子どもをつくれるんだ」と思う人もいるかもしれない。実際、生殖年齢の基準が女性よりも高く、クリニックによっては、凍結した精子の保管期限は60歳を過ぎても有効だ。精子凍結は一見、最強のリスクヘッジのようにも見える。

 だが、精子の加齢は、てんかんの発症率が上がったり、未熟児が生まれやすくなったりするなど、生まれてくる子どもの健康に関係することが最近の研究でわかってきている。

 香川さんは、精子凍結も卵子凍結も、未来への保険のようでいて、「今を安心して生きるための技術」とも指摘する。

 取材では「もし将来望んだときにできなかったら、怖いから」という声をよく聞いた。不妊治療について経験者や情報が増え、「望んだときにできない可能性」が恐怖にも似た感情として若い世代に広がっているのかもしれない。精子凍結はそのリスクヘッジとなりうるかもしれないが、効果検証はまだこれからだ。“未来への保険”がどれだけ機能するか、切実な思いが詰まった技術の行方を見守りたい。

(ライター 松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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