報告された滑走路誤進入のうち、「重大インシデント」に該当する割合は1割近くあり、米国(カテゴリーA)の0.4%に比べて極めて高くなっている。
多くの事故防止に用いられてきた「ハインリッヒ法則」は、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがある、というものだ。しかし、少なくとも滑走路誤進入防止については、この法則が軽んじられてきたと、牛草さんは感じてきた。
「小さなトラブルを解決していかないかぎり、必ず大きな事故は起きますよ」
一方、FAAによると「ここ数年、米国における深刻な滑走路誤進入の数と率は着実に減少している」という。
原因の8割はヒューマンエラー
滑走路誤進入の原因は、大きく分けて5つある。①人的要因(ヒューマンエラー)、②空港レイアウトや設備の不備、③技術革新との齟齬、④教育不足、⑤組織体制の問題だ。
なかでもヒューマンエラーは、滑走路誤進入の直接の原因の約8割を占めるとされ、パイロットと管制官に起因すると、FAAは分析している。
パイロットと管制官はそれぞれ別の組織に所属し、高度な専門性を持ち、職務に当たっている。
離着時のパイロットはさまざまな準備に忙しい。管制官も次々と離着陸する航空機をさばくことに神経をすり減らす。そのため、お互いが置かれた状況を思い描けるようになっていないと、交信によるコミュニケーションで齟齬が生じ、滑走路誤進入が起きやすくなる。
「管制官からの指示の内容を間違って理解しないように、機長と副機長がそれぞれ個別に聞いて確認するのですが、その最中に客室乗務員から話しかけられて、意識が別のところにいってしまうこともある。朝から離発着を繰り返していれば、当然、集中力も落ちてくる」
一方、管制官の現場は人手不足が深刻で、ぎりぎりの人数で管制業務を行わなければならないうえに、羽田のような繁忙空港は混雑が常態化した中での業務なので、常に重圧がのしかかる。