徳川綱吉は単なる“犬公方”ではなかった(写真:Stock / Getty Images Plus)
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 年末になると最終盤を迎えるNHK大河ドラマ。歴史研究が進む中、大河の可能性は想像以上に広がっている。AERA 2023年12月25日号より。

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 研究が進み、解きほぐされる歴史もあれば評価が変わる出来事や人物もいる。2020年大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公であった明智光秀は代表的な例だ。本能寺で信長を討った光秀は裏切り者や狡猾な悪人とされてきたが、最近は名君という評価もある。

 光秀のように評価が変わっているのが徳川綱吉である。綱吉は「生類憐れみの令」を制定した徳川幕府の5代将軍で、「犬公方」とも揶揄されている。

「『生類憐れみの令』は犬だけを大事にしたのではありません。生きとし生けるものすべてを大切にするという慈悲深い法令なのです」

 そう話すのは法政大学人間環境学部教授の根崎光男さんだ。さらに綱吉は生き物を大事にしただけでなく、目上の人を敬う儒教の精神も重視した。

「それもこれも綱吉には世の中をよくしたいという強い意志があったのです」と根崎さん。

 ではなぜ綱吉の評価はよくなかったのか。

「それは新井白石が綱吉のことを悪く評したのが大きな要因ではないかと私は考えています」

 白石は6代将軍・家宣に抜擢された。家宣の政治をうまく治める手段の一つとして前政権の否定がある。その方法を白石は取ったのではと根崎さんは言う。別の見方をすると綱吉はそれほど優れていて、今の政権に綱吉の影を感じさせないための大胆な策ともいえる。

大真面目すぎた綱吉

 さらに、長らく綱吉の評価が低かったのは、綱吉らしき人を主人公とした義太夫節「相模入道千疋犬」や歌舞伎「吾妻造大台所」なども上演され、一般の町人にまで綱吉=悪というイメージが広まり、それが定説となったからだ。

 そういう綱吉の評価が変わったのは根崎さんの著書『生類憐みの世界』がきっかけのようだ。根崎さんは綱吉について先入観をなくし史実を徹底的に調べた。そうするとこれまで言われていた自分勝手な犬好きとは違う綱吉像が見えてきた。

「綱吉がもし愚将というのであれば世の中を治めることができなかったはずです。綱吉は徳川の世も安定したことで戦や諍いを徹底的になくし戦後時代の名残を消そうとしたのです。社会をよくするために、大真面目に取り組んだのです」

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