修理中の「紫式部図」=滋賀県、2023年

 さらに綱吉が血や穢を極端に嫌ったことも要因であると解説してくれた。

 それが行き過ぎた感があると根崎さんは言う。綱吉は将軍の跡継ぎがいない中、たまたま将軍にされた養子であった。そのため自分が徳川の世を乱してはならない、前の将軍よりよい世にしようと頑張りすぎた結果だとも根崎さんは推測する。

「綱吉のすべてが素晴らしい人というわけではありません。綱吉が将軍という地位にいたのが少しよくなかったのでしょうね」

 絶対君主であるが故に、綱吉の一言が絶対的な命令になり、家臣たちは「忖度」して政治を行わざるをえなかった。

 養子から将軍になったためのプレッシャー、将軍としての孤独、忖度して出世を企む家臣……それらの動きを描けば興味深いドラマになるのではとも根崎さんは期待を寄せる。

「ただし、脚本家によって綱吉をどう捉えるかで変わってきますよね。あまりに美化するのはよくないし、かといって昔の定説のように犬公方という姿を際立たせるのもよくないと思います。多少の脚色はあっても根本的な史実は必ず押さえることは非常に重要です」と強調する。

技術が進化する大河

 根崎さんも室町時代を研究するお茶の水女子大学・文教育学部准教授の大薮海さんも、大河ドラマを研究者という視点で見るので、史実を大幅に曲解するのはいただけないと言う。

 では、大河ドラマの現場で史実について考察する考証者はどのような考えがあるのだろう。12年の大河ドラマ「平清盛」以来、約10年大河ドラマの風俗考証を担当してきた立正大学文学部教授の佐多芳彦さんに聞いた。

「ここ数年、大河ドラマは扱うテーマも以前とは変わりつつありますが、大きく変わったのは見せ方です。技術の進化で4Kなどテレビの解像度がより細密になったことで、衣装や小道具も細部にまで気を使わなければならなくなりました」

 また史実に関する情報へのアクセスも容易になり、視聴者の目もきびしくなっているという。

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