geneとは、遺伝子のことだ。
「もちろん、親と顔かたちが似るとか、そもそも人が人の形になるとかいうことも(遺伝の作用として)あるけど、生命というのはもっとずっとダイナミックなもので、どんな環境でも、必ずどこかで生き延びるものが出てくる。生命の源としてのgeneは、40億年前からずーっと受け継がれているんですよ。ということをイメージすると、遺伝の捉え方がちょっと変わってくるんじゃないかなと思います」
不平等な現実を、前向きに生きるには
安藤さんによれば、人間が自由意志によってなんでも自分で決めていけると考えるのは、科学的にはあまり正しくないらしい。脳科学の知見によれば、自分がなんらかの意思を持ったと思うより先に、脳が動いているという。
「脳の神経ネットワークの配列はものすごく遺伝性が高くて、一卵性のふたごだったらほとんど同一人物のような形をしているんです。そりゃ同じような心の動き方になるよね、ということなので。脳科学も遺伝学もどんどん複雑になっていますが、もともと持っている生物学的条件が、人間が意思だと思っているものを構成していく」
だとしたら、この「ガチャ」に満ちた不平等な現実を、前向きに生きていくにはどうすれば?
「自由意思という概念はまったく意味がないかというとそんなことはなくて、どれだけ脳が科学的に解明されようが、人間が楽しいとかうれしいとかきれいだと感じるのは変わらないのと同じように、自分が自由に意思決定しているという感覚が大事であることは変わらない。だから、自分のなかにあるこだわりとか、好きだな、気になるなということを手がかりにして、ちょっと何かやってみる。そうすると、自分なりに手応えを感じたとか、ほかの人が評価してくれたということが一定の確率で起こって、それがうまくつながっていくと、その人なりの居場所と出合っていけると思うんです。そのなかで自分の能力を育てたり、あるいは育ててくれる人と出合ったりする。教育とはつまりそういうことで、そうやっていくうちに、楽しく食べていけるようになるのがいいんじゃないかなと思うんですよね」
自分のなかに芽生えるポジティブな感情に素直になること。遺伝と環境をめぐる安藤さんの研究は、そんなメッセージに行きつく。安藤さんの著書『教育は遺伝に勝てるか?』は、幸せになるための本でもある。
(構成/長瀬千雅)