西暦107年頃、イグナティオスはローマ帝国の皇帝トラヤヌスの前に引き出され、ローマの神々への礼拝を強要されますが、「わたしたちが礼拝するのは天地を創造した唯一神のみです。木や石でつくった偶像を拝むことはできません」と拒んだことで皇帝は激怒し、死刑が確定します。ローマの円形闘技場で大観衆の見物する中、飢えた猛獣のエサにされると決まった時、イグナティオスは大喜びして叫びました。
「主よ、あなたのために、いのちをお捧げできる光栄に感謝します!」
ローマに護送される最中にイグナティオスが各地のクリスチャンたちに宛てて書いた7通の手紙が現存していて、初期キリスト教の内情がわかる価値の高い資料となっています。その中で彼は「皆さん、わたしを愛してくださるなら、わたしの受難をどうか妨げないでください。わたしはキリストの麦となるために、跡形も残らないくらい猛獣の牙で噛み殺されたいのです」と、書き記しています。聖書にある「一粒の麦が地に落ちないあいだは、それは一粒のままです。でも、それが地に落ちて死ねば、多くの実を結びます」という内容の聖句を意識した表現でしょう。