近所の住民から「子どもの泣き声が聞こえる」と通報があったことで、大阪市の児童相談所(児相)にも連絡がいった。児相の児童福祉司が、ソフィアさんとケースワーカーとの面談に同席したが、子どもを保護するレベルの問題は見られなかったという。長男が通う幼稚園への聞き取りでも、日本語の習得こそ他の子と比べて少し遅かったものの、園の行事にも母親が熱心に参加するなど、大きな問題はないようだった。
児相はソフィアさんに対して、保育所を利用して昼間の仕事を探すことを勧め、あとは区の対応に任せた。
当時の児相の担当者に、ずっと後年になって取材をしたことがある。この担当者は「子どもがやせ過ぎているとか、けがをしているとかいうこともない。お母さんが子どもを大切にしている印象もあり、その時点では大きな問題は感じられなかった。お母さんの心の中に何があったのか、それは今もってわからない」と話していた。
ソフィアさん母子のケースは、大阪市の児相に年間数千件も届く「虐待疑い」通報の一件として、埋もれていった。
そして事件は二〇一二年四月十五日、午前五時ごろに起きた。
ソフィアさんが自室で、子ども二人と無理心中を図った。
ソフィアさんの大声を聞いた同じマンションの住民が一一〇番へ通報。駆けつけた救急隊が三人を病院へ搬送したが、まもなく長男の死亡が確認された。長女とソフィアさんも重傷を負った。