東北大学加齢医学研究所の脳科学研究部門で准教授を務める細田千尋氏に見解を聞くと、「現代の脳科学において、さまざまな現象を男女差で説明するのはもはやナンセンス。すべては個人差にすぎません」と、一蹴された。
細田氏によると、男女の脳がちがうという認識が広まったのは、1982年に権威ある学術誌「サイエンス」に掲載された、一つの論文の影響が大きいという。その内容は、「男性9人、女性5人の脳を調べたところ、男性より女性のほうが、脳の右半球と左半球をつなぐ“脳梁”が太かった」というものだ。この論文によって、「脳梁が太いと左右の脳の連絡がスムーズになるため、女性は細やかでマルチタスクが得意」という定説が生まれたが、何千人もの脳のデータを解析した、その後の研究では、脳梁の太さに男女差は認められなかった。
にもかかわらず、40年も前の研究をもとにした、男脳/女脳という概念は、いまだに幅を利かせている。その理由について、細田氏はこう分析する。
「分からないことをなんとか理解するために、『まあ男と女のちがいだよね』と片付けようとするメカニズムが働くのでしょうね。しかし、社会が勝手に作り上げたジェンダーバイアスは、ステレオタイプ脅威によって現実になってしまいます。たとえば数学の問題において、難易度が高くなるほど女子の正答率が下がる傾向がありますが、これは『女子は数学が苦手』という思い込みが関係していると思われます」