「チェスは、すべてのプレーヤーの実力を“レーティング”という統一された数値指標で把握する仕組みが確立されています。各国の男性トップ選手10名と、女性トップ選手10名のレーティングの平均を比較すると、ほとんどの国において約300点の差がある。これは理論上、男性の勝率が約80%となる点数差です。今回のFIDEの決定は、数値上明らかになっている男女の実力差を踏まえたものだと捉えています」
FIDEが新方針を発表した具体的な理由は示されていないが、連盟担当者は、こう推測する。
「男性の中では芽が出ないけれど女子大会だったらトップレベルになれるプレーヤーが、本当はトランスジェンダーではないにも関わらず性別を変える、という不正を防ぎたいのでしょう。FIDEの加盟国は、先進国から発展途上国まで約200カ国。経済的に豊かでない国に生まれ、一獲千金を夢見るプレーヤーの“勝ち”への執着は、日本とはけたちがいのはずです。手術を受けてでも女性になろうとする選手がいても不思議ではありません」
実際、日本国内にもトランスジェンダー女性の選手がいるが、女性選手から「不公平だ」という声が上がったことはないため、連盟としては国内の大会に関してFIDEと同様の対応を行う予定はないという。
では、FIDEの決定が女性蔑視に基づいたものではないとしても、なぜ“頭脳戦”のチェス競技において、歴然とした男女の実力差が存在するのか。連盟担当者は「はっきりとした原因は分からない」と困り顔だったが、「あくまで個人的な見解」として、二つのポイントを指摘した。