まず一つ目は、競技人口の問題だ。チェスの競技者は世界に7億人いると言われる。しかし、国際試合を見ると、女性プレーヤーの数は男性プレーヤーの10分の1ほどだという。これは、「チェスは男性のもの」という根拠のないイメージが招いた事態だと考えられるが、女子の競技人口がもっと増えれば、すぐれた才能を持つ女子選手が現れる確率は高くなるはず、というわけだ。
もうひとつは、心理学にひもづく問題だ。実は、チェスの試合結果をもとにした興味深い研究論文があり、女性は男性相手の試合になると、女性同士の試合よりもパフォーマンスが下がってしまうことが報告されている。この現象は、心理学的には“ステレオタイプ脅威”という理論で説明され、「男性は女性より強い」というステレオタイプによって、女子選手は無意識のうちに本来の能力を発揮できなくなっている可能性があるのだ。
頭脳戦にもかかわらず、男女の実力に大きな隔たりがあるのは、チェスに限った話ではない。日本のボードゲームの代表格である将棋では、男女問わないプロ資格「棋士」に合格した女性はいまだかつておらず、代わりに「女流棋士」という別のプロ資格が用意されている。
このようなボードゲームにおける男女の実力差について、「男性は女性よりも論理的思考にたけているからだ」などと、いわゆる“男脳”と“女脳”によって説明する人もいるが、科学的には正しいのだろうか?