フラリーマン化する男性会社員の悲哀について、一歩引いて冷静に分析するような物言いは、時間の経過とともに、自らの経験を俯瞰できるようになった証しなのかもしれない。

複雑化する男性間の支配構造

 経済・社会構造の変化などにより、出世の象徴でもあった管理職ポストに就けないばかりか、給料が伸び悩み、男性優位の企業社会において絶対的な規範であった「男らしさ」を具現化できずに苦しむ男性が増加し、今や多数派となっていると、筆者は分析している。

 彼らは、事例で紹介した男性たちが多用した言葉である「勝ち負け」で表現すると、社会的に成功するなどして「男らしさ」を実現している少数派の〝勝者〞に支配されている〝敗者〞ということになる。このまま社会の構造や当事者自身も含めた人々の意識が変わらなければ、こうした敗者の男たちの苦悩はますます深刻化するだろう。

 男性間権力構造のパターンは一様ではない。定年後雇用や男性の育児参加など、時代とともに職場や家庭における男性のあり方が変容しているなか、支配・被支配の構図は複雑化、重層化している。

●奥田祥子(おくだ・しょうこ)
京都市生まれ。近畿大学教授、ジャーナリスト。博士(政策・メディア)。元読売新聞記者。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、医療社会学。2000年代初頭から社会問題として俎上に載りにくい男性の生きづらさを追い、「仮面イクメン」「社会的うつ」「無自覚パワハラ」など斬新な切り口で社会病理に迫る。取材対象者一人ひとりへの20数年に及ぶ継続的インタビューを行っている。主な著書に『男性漂流』(講談社)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)、『社会的うつ』(晃洋書房)、『男が心配』(PHP研究所)などがある。