「私が部長になれなかった時点から、急に妻の態度が冷たくなって……それがそもそも、自宅に帰りたくなくなった理由でした。実際には直属の部下もいない閑職ですから、会社に残って処理するべき仕事もないわけです。だから……街をフラフラするしかないじゃないですか……」

今や「負け組」が多数派

 2023年春、同じ部署の部次長待遇のまま、51歳になったばかりの北山さんは、思ったよりも落ち着いた様子で、職場の出世競争や人間関係について語った。

「男は社内の出世競争に勝つために頑張っている。特に私のような団塊ジュニア世代は、それが働くモチベーションになっていると言ってもいい。でも、管理職の数そのものが削減され、ポストに就くこと自体難しくなっている。つまりもう出世する見込みのないなか、正直、何のために働いているのか、自分を見失ったまま働いている感じです。少数派の勝ち組の男たちに、多数派の負け組の男たちが蔑まれる。そりゃ、つらいもんですよ」

「管理職ポストに就く以外でも、例えば日々の仕事の実績を積み上げ、職場の人間関係を良好に保つことも、以前に比べると難しくなっているのでしょうか?」

「そうですね。実績を上げること以上に、失敗しないことが重要ですし、ハラスメントと誤解されないように部下との人間関係には念には念を入れるとか、少しでも気を抜くと足をすくわれる時代になったなというのが、自分の経験も踏まえた考えです。もう巻き返しを図れない私が言うのですから、より客観的な見方だと思いますよ」

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複雑化する男性間の支配構造