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「男らしい」男たちに抑圧され、支配される側の男性たちの苦悩は可視化されにくい。職場でも家庭でも居場所をなくしたまま、立ちすくむ男性が急速に増えているのだ。男性の生きづらさを長年、取材している近畿大学教授でジャーナリストの奥田祥子氏は、蔑まれる立場に転落した男性に話を聞いた。『シン・男がつらいよ 右肩下がりの時代の男性受難』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、紹介する。

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 バブル崩壊後の新規学卒者の採用減に始まる企業の人件費削減策が、社員のリストラ、つまり出向・転籍から早期退職募集、退職勧奨まで進行していた2005年、メーカーの人事部で人員削減策の立案に携わっていた北山新之助(仮名)さんは、33歳という年齢の割には落ち着いた物腰で、冷静に現状を説明した。

「企業業績を回復するため、最も手っ取り早いのは人件費の削減です。成果主義の人事考課が低い社員には、片道切符の子会社行きや早期退職など、出て行ってもらうしかないんです。企業のリストラ策は、ますます厳しくなっていくと思います」

「失礼ですが、会社の仲間に辞めてもらう職務を担当することは大変ではないですか?」

 本来なら少し機嫌を損ねてもいいような質問にも表情ひとつ変えず、淡々と答えていく。

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リストラ実行で抱えた葛藤