「仲間を切るなんて惨いと思う人も多いんでしょうね。でも、われわれ人事がリストラに動かなければ、それこそ従業員全員が路頭に迷ってしまうことになる。ここは冷徹にいくしかないんですよ。それに……」

 淡々と話していた北山さんがここに来て、初めて感情を露わにしたように見えた。

「リストラのターゲット層はもうすぐ、私たちの上司、先輩世代の30歳代後半から40歳過ぎのバブル世代へと広がります。大学受験就職もライバルの多かった私たち団塊ジュニア世代と異なり、バブル世代は売り手市場で容易に大量入社し、甘い汁を吸ってきたんですから、ここで犠牲になってもらうのもやむを得ないですね」

 このバブル世代に対する手厳しい見解の裏には、彼なりの複雑な思いが込められていたことを知るのは、数年後のことだ。

リストラ実行で抱えた葛藤

 その後、総務部、労務部を経て2010年、人事部に戻るのと同時に、38歳で同期の中でもいち早く課長に昇進した。そして、人事部でリストラ実行チームの先頭に立つことになる。この間、結婚して一男一女をもうけ、公私ともに順風満帆のはずだった。だが、この頃から、仕事でかなりの精神的負荷がかかっていたことを取材を通して知る。

「もちろん私だけで辞めてもらう社員を決めるわけではありません。でも……リストラ対象者一人ひとりと面談して、その旨を通告する役目、つまりリストラ実行の最前線に立っているのは基本的に私で……それだけに、そのー、なんというか……」

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勝者から敗者への転落