かつて自ら「冷徹に」リストラを捉えていた彼にしては、どこか弱気に見える。
「やはり、社員の首を切ることはつらいですか?」以前の彼なら、即否定したはずだ。答えに代わって訪れたしばしの沈黙が、この質問を肯定しているように思えてならなかった。
「…………。業績、能力などの人事評価では何度も見返して理解しているつもりでも、実際に面談してみると、私が知り得なかった家族も含めたリストラ対象者の人生が見えてくるんです。今まさに上司、先輩のバブル世代がリストラのターゲットとなっていて、過去に同じ部署で働いていた人もいる。お世話になった人たちを切るのは……正直、やるせないというか……。でも、そこにためらいはありません。会社のためにやるしかないんです」
最後の言葉を自身に言い聞かせるように語った。以前から抱えていたであろう葛藤は、リストラ実行の先頭に立つことでなおいっそう深まっているようだった。
勝者から敗者への転落
葛藤を抱えながらも与えられた任務を遂行して実績を重ね、労務部の部次長を務めていた北山さんに、思いもよらない事態が待ち受けていた。古巣の人事部の次期部長への昇進が目されていた2017年、45歳の時に部下の30歳代前半の女性からマタハラで訴えられるのだ。