団地から戸建て。もっと広く、願わくは都心へ。

「背伸びする中産階級の典型でした」

 そう語る片山の家族史は高度成長期の日本のファミリーの理想像と重なり合う。大きな家に住んでピアノやクラシックバレエを子に習わせ、皇太子一家のように家族で楽器を奏でる。豊かさへの渇望と、文化教養に強く憧れた時代だった。

 自身、幼稚園のときヴァイオリンを習い始めた。ところが不器用で指がまわらない。レッスン前日には裸になって風邪をひこうとするほど、クラシック音楽が嫌いになった。

 稽古は小学校高学年まで続いたが、半面、両親ともわが子の興味に寛容だった。そのころ入れ込んだのが「特撮怪獣モノ」「戦争モノ」。思う存分、熱中できた家庭環境が「片山杜秀」をつくった。

 まずは怪獣をめぐる精神史から。

 映画館で最初にみた封切り作品は「怪獣総進撃」。その種の怪獣モノを繰り返し見て、記憶に一番残るのがテーマ曲だった。「怪獣大戦争」「大魔神」の不気味な音楽が耳に残り、幼稚園や小学校へも口ずさんで通った。

 漢字が読めるようになると、映画館で買いそろえていた作品プログラムを見て、自分が好きな音楽の作曲者はどれも同じ人だ、と気づいた。

 伊福部昭。ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ~の繰り返しが印象的な「ゴジラのテーマ」の作曲家だった。小学校高学年の頃、映画専門の音楽家ではないことも知った。

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