学部の3、4年生を対象にした日本思想史のゼミ。この日は戦時中の溝口健二監督「元禄忠臣蔵」が題材。「日本的映画」を追求した溝口の狙いと時代背景を解説した(撮影/篠塚ようこ)

「一見、ごった煮。ただ、実際には筋が通っていて、いつも新鮮な風景をみせてくれる」

 音楽の評論も多い文芸批評家の都留文科大学名誉教授、新保祐司(70)は片山の才能に舌を巻く。

 例えば、普通「ABCDE」の順で紹介する話を、片山の場合、Aから突然Eに飛ぶことも。

 まるでランダム再生。「ゴジラのテーマ」からベートーヴェンに飛んだり、エロ・グロ映画の話をしていてモーツァルトにつなげたり。しかも、最後には読者を「なるほど」と納得させてしまうのだから、と感心する。

「毎回きれいな絵が完成するとは限らない。けれど、成功したときには感動を覚えるほどだ」

 新保は20年以上前、月刊誌「中央公論」編集長だった粕谷一希から、「きみの本は正統派すぎて売れないだろう。これからはね、上質なエンターテインメント性がなくちゃダメ。評論もね」とアドバイスされたという。

「そのときは『そんなものかなあ』と思った程度だったけれど、片山さんを見ていてよく分かる」

 政治、歴史、映画、演劇、古典芸能、美術、文学、サブカルまで動員し、それでいてクラシック音楽の本質をついてくる。何よりオーソドックスな部分に詳しく、エピソードや細部でも他の追随を許さない。余人をもって代えがたいと語る。

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